近年、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上での誤情報の拡散や名誉毀損が深刻な社会問題となっている。日本政府はこれに対処するため、法整備やガイドラインの策定を進め、健全な情報環境の構築を目指している。
SNSがもたらす課題
SNSの急速な普及により、誰もが自由に情報を発信・共有できるようになった。しかし、匿名性を悪用した名誉毀損や、誤情報の拡散、サイバーブリングが問題となっている。特に、情報の伝播速度が速いため、被害が拡大する前に適切な対応を取ることが難しい。総務省は、インターネット上の違法・有害情報が社会問題化していると指摘し、2020年に「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を公表した。
政府は、未成年者の保護、選挙の公正性確保、国家安全保障の観点から、SNS規制の必要性を認識している。特に、選挙期間中の誤情報は民主主義に影響を与える可能性があり、早急な対策が求められている。
具体的な措置である情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の施行
4月1日から、「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)が施行される。この法律は、SNSや掲示板での権利侵害、例えば名誉毀損やプライバシー侵害への対応を迅速化することを目的としている。月間アクティブユーザー数が1000万を超える大規模SNS事業者は、具体的な投稿削除基準を公表し、削除申請に迅速に対応する義務を負う。
ガイドラインでは、第三者からの削除申請にも対応することが望ましいとされており、これが過度な規制につながるのではないかとの懸念も一部で生じている。
選挙期間中のSNS規制
選挙中の誤情報対策として、政党間でSNS利用規制の議論が進められている。昨年12月、村上誠一郎総務大臣(当時)は、選挙でのSNS利用について、名誉毀損罪や公職選挙法の虚偽事項公表罪などの既存法令を適用しつつ、さらなる規制の必要性を検討する考えを示した。
毎日新聞が2月に実施した調査によると、選挙期間中のSNS規制に75%の国民が前向きな姿勢を示した。一方で、50%が「誤情報に騙されない自信がない」と回答し、デジタルリテラシーの向上が課題であることが明らかになった。この結果は、国民が誤情報対策を支持する一方、情報を見極める難しさを認識していることを示している。
一部の専門家は、過度な規制が表現の自由を侵害する可能性を指摘する。オックスフォード大学の研究者、アンドリュー・シュビルスキー氏は、SNSとメンタルヘルスの関係について、規制が必ずしも問題解決につながらないと主張している。日本国内でも、第三者による削除申請が言論の自由を制限する恐れがあるとの声が上がっている。
誤解とデマの拡散
「SNS規制はデマ」とする情報がX上で拡散され、国民の間に誤解が生じている。ある報道では、規制の存在自体を否定する声が広がり、政府の意図が正確に伝わっていない状況が指摘されている。政府は、正確な情報発信を通じて国民の理解を深める必要がある。
その他に、日本以外の国でも、SNS規制の動きが広がっている。オーストラリアでは、2024年に16歳未満のSNS利用を禁止する法律が施行され、国民の77%が支持した。この規制は、子どものメンタルヘルス保護を目的としているが、効果については議論が分かれている。日本では、こうした国際的な事例を参考にしつつ、国内の状況に合わせた規制が検討されている。
画像: 株式会社ナウラ